夢の終わりに

第 27 話


「ルルーシュは飲んだら駄目だからね」
「何を言う、迎え酒という言葉がある様に、日本には二日酔いに酒を飲む習慣があるだろう」
「そんな習慣ないよ。アル中の考えだろそれ」

何でそんな言葉知ってるんだよ。お酒は駄目だからね。と、スザクはルルーシュが取ろうとした缶を取りあげた。あれだけ苦しんだルルーシュは、夕食の時間には随分と楽になったのか顔色もよくなり、俺とスザクが晩酌しているのを見て飲みたくなったとか言い出したのだ。

「まあ、確かに二日酔いになった時、ちょっと飲むと楽になるよな」

アルコールでマヒするだけかもしれないけど、経験はある。

「ほら、経験者がいるぞ」
「リヴァル、まさかルルーシュが飲むのに同意する気?」

なんでそんな事言うんだよ。と言いたげに睨まれた。やべ、また機嫌悪くしそうだ。

「いやいや、飲まないのが正解だろ。今飲めば明日も辛くなるぜ?」

だからお前はお茶でも飲んでろとペットボトルを差し出すと、あからさまに不愉快そうに眉を寄せた。うわー、こっちもあっちも不機嫌だよ。勘弁してよ、板挟みなんて胃が痛くなるだろ。

「俺だけ飲めないなんて不公平じゃないのか?」
「お前は昨日飲み過ぎて苦しんでただろ。俺とスザクは平気だった。飲みたいんなら、二日酔いになるような飲み方はするな」

まあ、スザクはザルで俺は不老不死による超回復力があるから平気なだけだから、普通体質なルルーシュには不公平に感じるかもしれない。でも、あんな飲み方してればへたすりゃ急性アルコール中毒で病院、場合によってはあの世行きだ。酒は飲んでも飲まれるなって言葉をルルーシュに教え込まなきゃな。
酔っ払い醜態をさらした覚えのあるルルーシュは、不機嫌そうにペットボトルの紅茶を口にした。
お酒の事はそれ以上口にしなかったためスザクも機嫌を直し、その後は食事をしながらこれから進むルートの確認と、その通過点にある観光地巡りについてルルーシュが延々と説明していった。ルルーシュの観光ルートは一般的なルートと若干ずれている。有名どころには興味は薄く、どちらかといえばマイナーな観光地を好んだ。当然そういう場所はメジャーな場所より危険な場合が多く、交通も不便だ。何でここに行きたがるんだ?と俺とスザクは毎度頭を抱えることになる。
あーホント、同行して正解だと改めて思うわけだ。
この町に滞在して明日で5日。
二人に出会ってからは、まるであの頃のように楽しい日々を送っていたから、すっかり忘れていた事がある。ルルーシュの身の危険ばかり考えて、自分の事をすっかりと見落としていたのだ。
俺は不老不死。
死んでもすぐ生き返る体を持っている。
今まで生き返った数は両手では足りず、もう何度死んだかなんてとうの昔に数えるのをやめたぐらいだ。ここ数十年の間にも何度か死んでいた。安全な国で平穏に暮らせば防げた死が大半で、俺の死因は主に金品目当ての犯罪者に殺害されるものだった。だから金品を奪われ、遺体は放置されるか、近くに水辺があれば沈められるか、自然が多いなら山に放置されたりもした。パスポートの類は首からぶら下げていて、財布類は主にポケット。だから身分証の類は無事だが、それ以外を失う事は多かった。
あーまた殺されたのか、またお金稼がなきゃな。
生き返った時の服は血まみれだったりボロボロだったりで酷い物だが、基本的に遺体は放置されているため蘇生する場面は見られずに済んでいた。不幸中の幸いと考え、どうにか衣類を手に入れ、また人の中に紛れ暮らしはじめる。
だが、決定的な場面は隠せても、俺が死んだ事実は消えない。
それを俺は完全に忘れていた。
いつもはこそこそと目立たないよう行動していたのに、懐かしい面影を持つにぎやかな二人との夢のように楽しい旅にどっぷり漬かってしまい、自分が目立ってはいけない事を完全に失念していた。あの美人過ぎて人目を引く容姿は隠せはしたが、完全に顔を隠し、大きなコートを着ているルルーシュは別の意味で目立つし、ルルーシュほどではないがスザクも人目を引く容姿だってことを忘れていた。
その傍にいる俺だって、当然人目についたわけだ。

考えてみろ。
ふと目にした目立つ連中の中に
自分が殺したはずの男が混ざっているんだ。

他人の空似にしては似過ぎている。
気のせいかと一瞬思うが、後をつけ会話を聞けば本人だと確信する。犯罪者の中には相手を油断させるために近づき、親しくなってから刺す奴もいて、こいつもそのタイプだった。だから、俺の話し方も知っているから、俺本人だと気付く。
自分が確実に命を奪った相手が生きている。
それは相手に二つの感情を呼び起こさせる。

ひとつは、自分が犯人だと知っている被害者が生きていることで、自分が捕まる可能性がある事。それを避けるために念入りに相手を懐柔し、面倒な手順を踏んで殺しているのに被害者が生きていては意味が無くなってしまう。

ひとつは、俺がどうして生きているのかという事。確実に息の根を止めたというのに体には何の障害もないし、以前と変わらず気楽な旅を続けている。致命傷を与えた場所によっては、その傷口が無くなっている事にも気付けるだろう。今回の相手は、確実にしとめるために首を掻き切っていたから、首元の傷がない事にも気づかれた。

そこから導き出される答えは少なく、あり得ないと解っていても、もしそうなら金になると考える。見世物にする事も出来るし研究施設に打診する手もある。それこそ国相手にも売れる商品。高額で売れる化物だ。

自分はそういうモノだと忘れた結果、最悪の事態を招いた。

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